「ロボットも、利便性と受容度が相まって需要が高まるのです」 フランク・トービー氏インタビュー その<1>
フランク・トービー氏は、ロボット産業の動向を追うふたつのウェブサイト「ザ・ロボット・レポート」と「エブリシング・ロボティクス」でよく知られている。また、長年研究してきたロボット企業の業績調査を集大成した世界初のロボット産業の株価指数「ロボストックス(ROBO-STOX)」の創設者のひとりでもある。ロボッストックスは昨年、ナスダックに登録された。
ロボット産業の見通し、ロボット起業、そしてロボストックスについて同氏に尋ねた。
Q. ロボット業界のニュースは、いつ頃から追い始めたのですか。そのきっかけは?
A. 真剣になったのは2007年からです。ちょうどリタイアしたばかりで、何か投資できるような株がないかと探していたんです。それで、証券会社にいろいろあたって、信託投資できる20〜30社のお勧め株を提案してもらったところ、どこにあたってもロボット関連の企業がちゃんと入っていない。「次にやってくるのはロボットだ」と私は思っていたのに、2社くらいしか含まれていないのです。あったとしても、コンベヤー・システムのような自動化機械だったりする。それなら自分で研究してみようと思ったのがきっかけです。だんだん勉強するのが面白くなって、そのうちフルタイムの仕事のようになり、学習したことをウェブに上げるようになったのが、私のウェブサイトです。
Q. なぜ「次はロボットだ」と思ったのですか。
A. リタイアするまでの35年間、私はコンピュータ・ビジネスに身を置いていました。その間、メインフレームからミニ・コンピュータ、マイクロ・コンピュータ、PC(パーソナル・コンピュータ)へと技術はどんどん変遷していった。中心型から分散型に移っていったのですが、そのありさまはただのソフトウェアに留まらず、いずれ物理的なモノとして現れることになると考えていました。それは、スマート・シングズでもあり、ロボット関連のものはすべてです。
Q. 2007年から今まで、ロボット業界はかなり変化してきたと見ていますか。
A. ずっと変化は続いていたと思いますが、昨年は肯定的な方向へ向かうティッピング・ポイント(転換点)だったと思います。メジャーなテレビ番組である「60 Minutes」、そして「タイム」誌のそれぞれで、ロボットのことが2回も取り上げられました。また、大企業もロボットに乗り出してきた。漸進的な変化は続いていましたが、ここへ来て人々の認識が変わったというところです。(註: インタビューが行われたのは昨年12月半ばで、グーグルのロボット会社買収が明らかになる前)
Q. ロボットの存在が身近になったということでしょうか。
A. ロボットの要素技術が軒並み安くなりました。以前ならば数1000ドルしたようなビジョン・システムが数100ドルになり、センサーや加速器、GPSなどが10ドルほどで手に入るようになった。そうなることはわかっていたのですが、本当にそんな時代が来た。そうすると、スマートフォンであんなにいろいろなことができるのに、どうしてロボットにはできないのだ、という意識が生まれるのです。実はPC時代を作ったのも、まさに同じような背景がありました。ホビイストが作った表計算ソフトや文書作成プログラム、支払いソフトなどをみんなが使いたいと言い始めたことによって、PCがどんどん広まっていった。利便性と受容度が相まって、需要が高まるのです。現在自動車工場で用いられているような製造ロボットにはセンサーやビジョン・システムが統合されていませんが、それもなぜついていないのかという要望がでるようになる。
Q. ただ、消費者向けロボットはまだ現実味はないですね。
A. あれだけ売れている掃除ロボットのルンバも、近年までは冗談の対象でした。アイロボット社はこれまでルンバを1000万台売っていても、市場としてはまだまだ小さい。サムソンは、1億台の掃除機を売っていますが、そのうちロボット掃除機は300万台に過ぎません。当分は、産業ロボットが業界を牽引していくでしょう。
Q. 国際ロボット連盟(IFR)発行の報告書のために、ロボット関連のスタートアップの調査をされました。これらのスタートアップには何か共通点はありますか。
A. 若い開発者たちの関心は、ヒューマノイド型のアシスタント・ロボット、用事をしてくれるロボット、掃除ロボット、おもちゃロボット、手術のアシスタント、介護アシスタントなどのロボットです。一般的に「サービス・ロボット」と分類されるもので、市場は家庭よりも6割がビジネスに向いています。
Q. ロボットの新しい市場として期待できるのは何ですか。
A. ことに農業と医療関連に大きな市場がありますね。無人航空機が農業ではかなり使われることになるでしょう。また、テレプレゼンス・ロボットも現在は大きくありませんが、医療関連での利用が期待されます。たとえば、ヴィーゴはいろいろ市場を試していたところ、登校できない子供が通学するのに使えるということがわかり、そこから派生して、通院する代わりに病院がロボットを子供の家に貸し出して、それで診療するようなことも起こっています。親が仕事を切り上げて病院へ連れて行くといったことをしなくても、テレプレゼンス・ロボットを10分間使えば済むのです。ただ、ヴィーゴの場合はスクリーンが小さいのが障害です。その点、インタッチヘルス社の製品はカメラが優れていてズームイン、ズームアウトができる。医療現場では、これが役に立ちます。インタッチ社はいずれ新しい製品を出すかもしれません。
Q. 日本では、長い間ヒューマノイド・ロボットの開発が中心となってきました。それと比べてアメリカは、形状にはこだわらずに「ロボット」と呼ばれるものがたくさんあります。ロボットをどう定義しますか。
A. 「感じて、考えて、行動するもの」で、二次元以上のモノであり、再プログラムが可能なもの。これが私の定義です。今後10〜15年の間、ロボットは機能的ロボットであって、ヒューマノイドのかたちはしないままでしょう。映画『ロボット&フランク(邦題:素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー)を観ましたか。非常によくできた映画で、10〜20年後にロボットはあのように人間がやりたくないことをやり、やりたいことを助けてくれる存在となるでしょう。それがヒューマノイド・ロボットのかたちをしている必要はないと思います。
Q. ヒューマノイド・ロボットを探求するのは、役立つロボットへの遠回りになるでしょうか。
A. そんなことはありません。並行して開発は進んでいく。どの国にも、顔の表情を再現するなど、難しいことを探求している研究者たちがいます。アメリカならばMITメディアラボのシンシア・ブラジルがそうでしょう。彼女の場合は、「不気味の谷」から学んで、カリカチュアのような表情を採用しましたけれど。ただ、人間がサービス・ロボットとコミュニケートする際には、人のような顔の方がいいという調査結果もありますね。
Q. シリコンバレーはソフトウェアやインターネット・サービスのスタートアップが資金を集めやすいところですが、ロボット関連のスタートアップの状況はどうですか。
A. かつては、ロボット起業はソフトウェア会社よりも4年以上長く製品開発に時間がかかると言われ、資金も多くかかると言われていました。ただし、現在はベンチャー・キャピタリストも大きなリターンを探しています。そうすると、ハードウェアのアセットのある会社の方が価値が出るのです。ですから、スマート・シングズ、あるいはソフトウェアならば、それだけで独立しているものではなくて、ハードウェアにインベッドされているようなものが注目を集めている。また、同じ洗濯機でもロボット機能を追加すれば、これまで洗濯機と乾燥機のセットが2000ドルだったものが、3000ドルに値段を上げ、さらに世界中でたくさんのユニットが売れるようになる。ボッシュ社が洗濯物を折り畳むアルゴリズムを開発しようとしているのも、そんなリターンの大きさが背景にあるのでしょう。
(その<2>に続く)