「UBR-1は、大企業の買収対象としては魅力的なはずです」 シリコンバレー・ロボティクス マネージング・ディレクター アンドラ・キーイ インタビュー その<1>

シリコンバレーでロボット関係者のためにさまざまなイベントを開催しているのが、シリコンバレー・ロボティクスという非営利団体だ。ロボット産業でのイノベーションと商業化をサポートすることを目的として設立され、100近い企業と世界的な研究所、そして個人会員が加盟する。

地元のロボット関連企業が自前のロボットを見せる「ブロック・パーティー」は、数々のロボットと数々のロボット関係者が一堂に会する年に1度のお祭りだ。それ以外にも、ロボットのスタートアップを支援する多様な活動を行い、ロボット関係者をむすぶ要のような存在である。

シリコンバレー・ロボティクスのマネージング・ディレクターを務めるアンドラ・キーイ氏に、シリコンバレーとアメリカのロボット事情の現在を聞いた。

アンドラ・キーイ氏は、ヒューマン・システムズ・エンジニアで、シドニー大学で人間とロボット文化を専攻。ロボット技術の推進に貢献してきた。ロボットのスタートアップ事情に詳しい。

アンドラ・キーイ氏は、ヒューマン・システムズ・エンジニアで、シドニー大学で人間とロボット文化を専攻。ロボット技術の推進に貢献してきた。ロボットのスタートアップ事情に詳しい。

Q. シリコンバレー・ロボティクスに加盟している企業は、スタートアップもあれば大企業もありますね。

A. だいたい3分の1ずつ、スタートアップ、中小企業、大企業に分類されます。

Q. 特にスタートアップでは、どんな分野のロボット会社、ロボット関連会社が多いのでしょうか。

A. 多いのは、教育と治療関連ロボット、ドローンや車などの農業ロボット関連です。コミュニケーション・ロボット、つまりスマートフォンを車に載せたようなスマホ進化形もよくあります。また、特定のプラットフォームには限らず、センサーやデータ処理関連も目立っています。これは、ROSのようにロボットにも使えるが、他の目的にも利用されるといったタイプのソフト開発です。

Q. 消費者向けロボットではどんなものがありますか。

A. デバイスがネット接続された、いわゆるテレプレゼンス・ロボットが、消費者向けとしては最も洗練されたものでしょう。家電関連は、アイロボット社の掃除ロボットやモップロボット、ネスト社のスマート・サーモスタットや煙探知機止まりです。産業用ならば、パイプ掃除ロボットもありますが、一般用にはそれ以上のものはありません。ヨーロッパでは芝刈りロボットが5〜6年前から使われていますが、アメリカでは需要がない。アメリカでは人による安い労働が手に入りやすいからでしょう。

Q. 医療ロボットも出てきていますね。

A. 医療関連では、インテューイティブ・サージカル社の手術ロボット、ダヴィンチのように何でもできるタイプではなく、特定の目的だけを遂行するようなロボットが主流です。たとえばカテーテルやステントを体内に挿入するとか、眼科のためのMRI画像ガイダンスによるレーザー手術ロボットといったものです。

Q. 特定の狭い機能だけを果たすロボットが出てくるのは、投資家からのプレッシャーもあるのでしょうか。

A. それはあるでしょう。そうではなくても商用化が目的ですから、その分野の専門家を取り込んで特定の分野で明解な道を模索するのです。同じように、石油や電力産業などでは、インフラの監視やソーラーパネルを掃除するといったロボットが開発されています。

Q.  介護ロボットはまだまだ出てこないでしょうか。

A.  介護ロボットを長年研究している会社はありますが、拠点はシリコンバレーではありません。シアトルのホアロハ・ロボティクス社はマイクロソフトのロボティクス部門を創設したタンディー・トラウワー氏が設立した会社で、この介護でのロボット技術を開発しています。ただ、シリコンバレーでは、ウィロー・ガレージのCEOだったスティーブ・カズンズ氏が創設したサヴィオーク社がこの分野を目指していますね。とは言っても、映画『素敵な相棒: フランクじいさんとロボットヘルパー』に出てきたような、人とは別の存在であるロボットが人助けをするといった未来は、まだまだやってきそうにありません。

介護ロボットを開発中のホアロハ社のサイト

介護ロボットを開発中のホアロハ社のサイト

Q. 医療分野ではロボット利用が進んでいるのにも関わらず、やはり介護ロボットは難しい分野なのでしょうか。

A.  介護する人を手助けするという意味では、病院内でロジスティクスを担うエーソン社のロボット、タグもありますし、アデプト社のロボットもそうした目的に合っているはずです。身体に装着するロボットも、介護よりはリハビリ用として、エクソ・バイオニクス社など数社が開発を進めています。

Q. 介護は、さまざまな状況が想定されるので、どんなロボットにするのかの特定が難しいですね。

A. 汎用性があるという意味では、アンバウンデッド・ロボティクス社のUBR-1は興味深い。ロジスティクスにも使えるし、介助の目的でも使える。UBR-1は、ここ最近でもっともクールなロボットではないでしょうか。アンバウンデッド・ロボティクス社のビジネスモデルは、クライアントのユーザーがそれぞれの目的に合ったプログラムを開発するというものですが、グーグルやアマゾンなど大企業の買収対象としては魅力的だと思います。UBR-1を一般市場には出さずに、特定の目的のために開発を進めさせようとしても、おかしくないと思います。

アンバウンデッド・ロボティクス社のUBR-1

アンバウンデッド・ロボティクス社のUBR-1

Q. ところで、シリコンバレーにロボット関連のスタートアップが増えています。これはインターネット関連の開発を行っていた人々が今、ロボットに移行しているということなのでしょうか。

A. インターネットやソフトウェア関係者が直接移ってきたというケースはあまりありません。ただ、もともとロボティクスやハードウェア専門の人々がしばらくグーグルに務めていたり、ソフトウェア開発に関わってきたりしたのが、次のステップへ進もうとすることはよくあるようです。彼らこそ、そうした能力を備えているわけですし、スマートなハードウェアが出てきた今、時期は熟している。

Q. ロボット起業のための投資は今でも難しそうですか。

A. 有名企業がロボットに投資し始めたことは、影響を与えています。今まではまったく関心がなかった投資関係者が目を向け始めていて、その幅も広くなっています。ただ、実際の投資までにはずいぶん時間がかかります。シード投資からAラウンドまで数年かかるということも、珍しくありません。開発者たちは製品と技術を成熟させるのに1〜2年を費やしますし、自分たちに合った投資家なのかの見分けもなかなかつきにくい。

Q. 市場での需要を見極めるというマーケティングも難しそうですね。

A. 研究や技術的な視点で開発を進めて、さて予約販売という段階になって初めて、市場の需要とのズレを認識するケースもあります。明解なビジョンやはっきりした需要がないと起業はうまくいかない。「解決する問題があり、それを求める多数の人々がいて、それに金を払ってくれる」という点をしっかりと見据えなければなりません。技術出身の起業家はマーケティングのスキルがないことがほとんどなので、ここで大変苦労します。マーケティング担当者を雇うと言っても、誰を雇えばいいのかわからない。そんなことよりも、別の技術開発の方がいいと次へ移っていってしまったりする。

Q. 最近はハードウェアのアクセラレーターがたくさんできていますが、そうした組織がかなり役立っているのでしょうか。

A. ハードウェア・アクセラレーターも、面倒を見るスタートアップに投資する立場なので、売れる市場があるということを求める場合が多い。それがあった上で、加速化できるという付加価値を与えるのがハードウェア・アクセラレーターです。最近は、以前はソフトウェア開発会社だけをサポートしていたアクセラレーターも、どんどんハードウェアのスタートアップを受け入れています。ウェアラブルへの注目もあるし、アクセラレーターとしては、幅広い分野に手をつけておく必要性もあり、もうソフトウェアかハードウェアかは関係がない。そして、スタートアップ側は、まるで大学入学申請のように、何社ものアクセラレーターに申し込みをするのが普通です。

その<2>に続く。

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