「日本のロボットは予想以上にインターナショナルだと思います」 ニューヨークタイムズ記者 ジョン・マルコフ氏 インタビュー その<2>

ニューヨークタイムズの科学記者であるジョン・マルコフ氏は現在、ロボットに関する著書を執筆中である。昨年12月、グーグルがロボット企業を数々買収していたというニュースを最初に報じたのも、マルコフ氏だった。シリコンバレーに育ち、長い間テクノロジー、コンピュータ・セキュリティーの分野をカバーしてきた有名記者である同氏がなぜ今、ロボットに注目しているのか。その<1>に続き、現在の新しいロボット産業をどう見ているのかなどを聞いた。P1010805 のコピー

Q. 産業別に見て、アメリカのロボットはどんな状況にあるのでしょうか。

A. ひどく盛んになっているのは、ホビイスト用のロボットでしょう。この前中国DJI社のクアッドコプターを飛ばしに行ってきたのですが、あんなに楽しかったことはない。カメラ付きで1200ドルで、iPhoneから操作が可能。それまではドローンに関心はなかったのに、欲しいと思ったくらいです。産業用では、アメリカの製造業がどうなるのかといった話題がいつも出てきますが、この分野はいずれテスラ・モーターズが用いているような高度なロボットが広まるようになるでしょう。家庭用は、掃除ロボット、モップがけロボットの次は何か、という状態です。サービス用では、病院内でモノを運ぶといったロジスティクス面で特定されたタスクを行うロボットが売れている。また、配送センターで相互に連携して動くロボットの分野では、アデプト・テクノロジーズ社シーグリッド社キヴァ・システムズ社など5社が取り組んでいる。配送センターのシステムは本当におもしろいと思いますね。キヴァ・システム社は、いったん「アイロン・ハンド問題」(手元を正確に捉えるコンピュータ・ビジョンと、器用で柔らかいロボット・ハンドが作れないという問題)が解決されれば、市場での優勢は変わってくるでしょう。自走車分野は、もう完全自律走行のすぐ手前まで進んでいる。車線を変えたり、人や他の車を避けたりも問題なくできる。グーグルについて言えば、自社製のグーグル・アームが出てきても驚かないでしょう。

DJI社のドローン、ファントム2ヴィジョン。(http://www.dji.com/より)

DJI社のドローン、ファントム2ヴィジョン。(http://www.dji.com/より)

Q. 大学など研究の世界では、どんなことに注目していますか。

A. 大学の研究室をいろいろ訪ねましたが、次世代のモーション・プラニング・アルゴリズムの開発がたくさん進んでいることがわかりました。例えば、ロボットが手をテーブルの下に入れるといった際に、その動きをプログラムする方法と、自然な方法で動きを生む方法がある。ここで生物を参考にしたアルゴリズムを研究している人たちがいて、これはとても興味深いと思います。

画像ガイダンスに基づいて自律走行するスタッカー(http://seegrid.com/より)

画像ガイダンスに基づき自律走行するスタッカー(http://seegrid.com/より)

Q. 実際に収入を上げるロボットはどんなものでしょうか。

A. クワドコプターには、大きな投資資金が流れ込んでいる。これは農業分野での利用などへ広がっていくでしょう。グーグルに買収されたIPI社は、大手ロジスティクス会社と契約をしたところだったらしいですが、人間の労働を置き換え、新しい製造サービスを行うこの分野は成長が見られるはずです。グルメ・ハンバーガーを自動的に作るモメンタム・マシーンズ社のようなロボットも、あればいいと思います。本当のグルメ・ハンバーガーよりは安く、マクドナルドよりはずっとおいしいとなれば、魅力的でしょう。次世代の農業でも自動化が多く起こっています。ブルー・リバー・テクノロジー社は、人間の2倍の速さで作業し、レタスの植え付けを効率化した。このようにスケール化できるロボットは有望でしょう。

Q. 昨年末開かれたDARPAのロボティクス・チャレンジ(DRC)も取材されていました。全般的にどんな感想を持ちましたか。

A. DRCのプログラム・マネージャーであるギル・プラット氏は、自身もマサチューセッツ工科大学で教えていたロボット研究者で、コンプライアンスについて最初の研究を行った。その彼が、人間に似たタスクをさせるという設定で行ったDRCは、ロボット技術が今どんなところにあるのかがわかる、優れたベンチマーキングの機会だったと思います。DARPAの方法で、現在の問題点も把握できたはずです。決勝戦は、新しい参加チームも加わり、さらに底上げされると見ています。

Q. 日本のロボットは独自の発展をしてきたと思いましたか。

A. 1位になったシャフト社を見ると、確かにモバイル・ロボットではリードしていましたが、それはヒューマノイド・ロボットを長く開発してきた研究室の流れを汲んでいるからです。しかし、ボストン・ダイナミクス社はアイボやアシモの開発に際してコンサルティングを行ってきたようですし、日本のロボットは予想以上にインターナショナルなのではないでしょうか。ただ、新しいロボット技術のために投資資金が動かないと、グーグルがトップのロボット会社になってしまう。グーグルは確実に目が離せない対象です。それでも、ホンダもロボットに戻って来たようですし、これからは変わるのではないでしょうか。

Q. ところで、アメリカで介護ロボットがそれほど話題にならないのはなぜでしょうか。

A. わかりません。明らかに高齢化では日本と同じ問題に直面するはずなんですが。アメリカでもタンデイー・トラウワーのホアロハ・ロボティクス社のように、その分野でロボットを開発している人はいます。ただ、社会文化の違いもあるのかもしれません。私の母が要介護となった時のことを思い出しますが、母は自宅でヘルパーの世話になるのを非常に居心地悪く感じたようでした。それが施設へ行くと収まった。

Q. ご自身にとって理想的なロボットは何ですか。

A. サンフランシスコに住んで、シリコンバレーで仕事をしている身としては、ロボット・カーが欲しいです。そうすれば、目的地へ向かう間も電話をし、仕事ができる。

Q. 社会的にはどんなロボットがあるべきだと思いますか。

A. サイボーグのように人間とロボットが一体化している必要はないと思いますが、人間のコンパニオンのような存在ではないでしょうか。人間のために用事をやってくれて、インタラクトもできる。映画『ハー』に出てくるようなものです。

Q. 著書はいつ発売ですか。そしてタイトルは?

A. 今年末の予定です。タイトルはまだ仮題ですが、『アンドロイドとダンサー』です。

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