ヒューマノイド・ロボットの課題とチャレンジ
イギリスの『ジ・エンジニアリング』誌が、ロボット関係者にヒューマノイド・ロボットの課題とチャレンジについて質問している。かいつまんでお伝えしよう。
参加者は:
・DB=デヴィッド・ビセット(自律システムのコンサルタント、前ダイソン社のロボティクス研究部門トップ)
・MR=マーク・レイバート(ボストン・ダイナミクス社創設者)
・NS=ノエル・シャーキー(シェフィールド大学人工知能およびロボティクス学部教授)
・RW=リッチ・ウォーカー(シャドー・ロボット・カンパニー社ディレクター)
Q. ヒューマノイド・ロボット技術を前進させている用途は何か?
NS:今までのロボットは、ウェスティングハウス社のテレヴォックス(1927年)から始まって、ホンダのアシモにいたるまで、大衆の想像力をかきたて、開発会社の実力を表現する以上のものではなかった。昨年のDARPAロボティクス・チャレンジが、初めて実用化に基づいたヒューマノイド・ロボットを課題としたものだ。われわれは今、実用化が起こるその出発点に立っている。
DB:今までのヒューマノイド・ロボットは、人間の身体的な動きをまねて注目を惹くだけだった。ヒューマノイド・ロボットは、難しくコストも高い。車輪など、すでに利用されているものを使う安いソリューションもある。ヒューマノイド形状の最良の利用方法は、その生物的メカニズム(筋肉)かもしれないが、それでもテクノロジー(電気モーター)を使って、家の中を歩き回らせるようにするのが最良とは言えない。
Q. 人間のような外見と性能を持ったロボットの長所は何か。特にどんなタスクに合っているか?
MR:ボストン・ダイナミクス社は防護服をテストするためにロボットを作ったため、人間のサイズと形状が必要だった。アトラスの場合は、人間のために作られた環境でロボットが利用されるという状況を踏まえていたため、人間が居るところに存在でき、人間の移動する環境で動くことが求められた。
DB:漫画に出てくる人間のような形状は人を惹き付け、脅威を与えず、期待させ過ぎないという長所がある。他方、人間のような形状だと、ロボットなのにちゃんとしたやりとりができるものと過大な期待を抱かせてしまう。次世代のロボットにおいて、スムーズで直観的で人間のようなやり取りが技術的に可能になれば、たとえファストフードのような限られたやりとりであっても、ヒューマノイドが望ましい形状になるだろう。それまでは、不満を抱かせるだけだ。
Q.「不気味の谷」問題(人間に似ているが、完全にはそうでないロボットを不気味に感じるという問題)は、どう避けるのがいいか?
RW:人間のレプリカを作ろうとしないことだ。特に義足や義手では大きな問題になる。多くのユーザーは、足や手そのものには見えないが、どこかエレガントなものを求めている。
DB:「不気味の谷」は利用できる。ロボットが人間的に見え過ぎるのをくい止めるからだ。人間の感覚は繊細なものごとを感知し、回りの人が何をしているか、何をしようとしているかを感じ取る。人間に似せるよりも、機能的にそうしたロボットを作ることが大切だ。
Q. 人間と安全にやり取りするために、ヒューマノイド・ロボットにはどんな原則と技術が必要か。
RW: ジョイント部分にフォース・センサーをたくさん付け、ソフト構造にし、人間の位置を正確に認識すること。産業ロボットと異なって、それほど危険なタスクはそもそも行わない。
DB: 難しいのは、傍にいる人間がこれからやるかもしれない行動を認識すること。たとえば、ベッドから持ち上げた高齢者が寝返りをうった時に、ちゃんと反応しなければならない。これはかなり高度な理解力を要することだ。
Q. AIの発展の中で、予想を超えるような行動を引き起こすものはあったか?
NS: AIは斬新的にしか進歩しない。予想外のことは今までなかった。ディープブルーやワトソンの利用は、驚きと言えるが。
Q. ヒューマノイド・ロボットの発展で引き起こされる危険性は何か。
MR:ロボットは、自動車や飛行機、コンピュータと何ら変わらない技術だ。安全に保つために、使い手が用心する必要があるだけだ。
NS:道具と同じで、危険にも安全にもなる。ただ、これについては論文もたくさん書いたが、人権を脅かすような利用方法もある。心配しているのは、正しく利用しないと、研究補助金が何年にもわたって断たれてしまうことだ。
DB: 人間のだまされやすさが危険だ。可愛いヒューマノイド・ロボットがすぐに受け入れられて、プライバシーや健康を害する可能性のあることを忘れてしまうようならば問題だ。弱者や子供は、この点でことに人間のようなヒューマノイド・ロボットにだまされやすくなる。
Q. 次世代のヒューマノイド・ロボットに求められるものは何か。
RW: 搭載電源と、世界といいやりとりができる能力。いいハンド、持ちのいいバッテリー。
NS: 器用なマニピュレーション、バランス。非GPSのローカライゼーションとマッピング。AIの発展。
DB: 高エネルギー密度の電力パックと、ロボットが動いていても指の絶対位置が保てる制御システム。
Q. モバイル機器が部品コストの低下で安くなり、一般に広まったのと同じようなことを起こすには、ロボット技術の何を変える必要があるか。
RW: 1000単位でなく100万単位で大量生産されれば、コストは下がるが、それまでにかなりのソフトウェア上の発展が必要だ。
DB:たくさん売れる市場を突き止めること。また、標準部品を用いてロボットを作ること。さらにロボット部品を安く作る方法を考えること。自動車業界がずっとやってきたことと同じだ。
Q. 人間の動きを模し、人間に役立つレベルの知的なやりとりができるようになるまでに、まだどのくらいかかると見るか。
DB:四肢の物理的性質はかなり複製できるようになっている。しかし、動きはまだだ。人間の動きは、人間の感覚や意識、思考とつながっており、モノを受け渡すといった単純なことすら、人間と同じようにはできない。また、システムによっては、すでに直観的なやりとりが可能で、役に立つものも出てきている。ロボットの受容度は、用途と方法に依る。高齢者が椅子から立ち上がるのを手助けするロボットならば、特定のやりとりだけを理解すればよく、その高齢者もロボットを受け入れるだろう。しかし、情報を集めて、その高齢者に特定の頭痛薬を差し出したり、医療的な処置をしたりするようなことは、受容されないだろうし、非倫理的だ。
RW: 動きや知的なやりとりという点では、いずれも実現している。たとえば、グーグルの自走車もその例だ。問題は、われわれが純粋な汎用ロボットが欲しい、あるいは必要としているのか。また、そんな金が払えるのか。それとも、広く認識されている問題を解決する特化したロボット技術を求めることが、正しいアプローチなのか、ということだ。その答は、AIがどれだけ発展するかにかかっているだろう。