「ロボット技術にはこれから偉大な進展があり、明るい未来があります」。 クアルコム・ベンチャーズ フーマン・ハギギ氏インタビュー<その2>

クアルコム社の投資部門、クアルコム・ベンチャーズがロボットを対象にしたアクセラレーターを創設する。(応募の詳細は、ここ

ハードウェアのアクセラレーターは各地に生まれているが、通信技術会社大手のクアルコム社がことにロボットや要素技術に特化したアクセラレーターを作り、起業家をサポートして、この分野の進化を促進するという動きは、大変興味深いものだ。

アクセラレーターは、カリフォルニア州南部のサンディエゴのクアルコム本社内に作られ、アクセラレーターとして評価の高いテックスターズ社が運営にあたる。サンディエゴはメキシコの製造産業集積地であるティワナにも近く、そうした地の利を活かしたいという。

ロボティクス・アクセラレーターの発案から立ち上がり、運営の展望まで、その経緯をクアルコム・ベンチャーズ社の担当者フーマン・ハギギ氏に聞いた。その<1>から続く。

Robot - haghighi_2

クアルコム・ベンチャーズ社のフーマン・ハギギ氏。カリフォルニア大学サンディエゴ校で計算論的認知科学を専攻し、その後スタンフォード大学で先端プロジェクト管理を学ぶ。10数年前にクアルコム・ベンチャーズに入社する前は、カリフォルニア州の警察車両に搭載するラップトップを開発した会社を創設した。

 Q. アクセラレーターに2期以上続けて滞在するというケースはあるのでしょうか。

A.  アクセラレーターは超集中力と、技術やビジネス面でのサポートを提供し、そこを卒業する時点では、うまく資金調達ができて事業をキックスタートできるよう体制を準備する場所です。ただ、今回はクアルコムにとっても初めてのアクセラレーター運営なので、それに先立っていろいろ研究しました。テックスターズによると、スタートアップが異なるアクセラレーターへ2、3回参加したケースはよくあるそうです。クアルコム・ベンチャーズがシードやレートステージで資金を投入するスタートアップに聞いたところでも、確かに複数のアクセラレーターを経てきたケースはあります。

Q. そうすると、製品化の時期についてはいつまでという特定の期間設定はないということでしょうか。

A. われわれの判断基準は、強いチームであるか、創業者がビジネススクールやアカデミアでのトラックレコードがあるか、起業を経験したことがあるか、といった点。また、世界を変えるテクノロジーを持っているのか、そして市場が見込めるかといった点です。さらに、必要条件ではありませんが、トラクション(牽引力)があるかどうかも判断します。

Q. トラクションとは、すでにユーザーがいるかどうかということですか。

A. ユーザーやカスタマー、熱心なファンがいるかどうかです。

Q. 応募は世界中から募られていますが、開発が対象とするのはアメリカ市場ですか。

A. 最終的に選ぶ10チームは、世界各地からの出身者になると期待しています。クアルコム・ベンチャーズは、中国、韓国、インド、イスラエル、ヨーロッパ、南アメリカ、そしてアメリカの3カ所と、世界で計7地域に拠点を構えています。投資マネージャーは世界中にいて、それぞれのリソースを持っている。彼らを通して、今回のアクセラレーター・プログラムを世界に広めたいと思っています。どこの地域にもスタートアップは生まれています。ですから、どこからでも応募できるようにしています。

Q. しかし、スマートフォンやロボットには、特定の市場に合った特定の機能性や社会の期待のようなものがあります。たとえば、日本のロボット開発はアメリカのものとは異なっています。そうした地域性をどう評価しますか。

A. 地域によって社会的、経済的な状況が異なり、その結果市場のニーズが異なるという点はよく承知しています。だからこそ、われわれは世界中の各地域にマネージャーを置いているわけです。それぞれの市場を知る彼らの視点が重要になります。応募するチームの技術に市場機会があるかどうかを、彼らの視点から特定できるからです。

Q. 人工知能(AI)やロボットのためのプラットフォーム、クラウド・システムなど、ロボットに関連はしていても純粋にソフトウェア開発であるというケースも受け入れ対象となりますか。

A. ハードウェア要素は欲しいところです。もちろん、ロボットのエコシステムが育っていくためにはソフトウェアの力や自律性は重要ですから、除外しているわけではありません。すべてはロボット技術形成のスタックに関連しているかどうかを意識します。

Q. 先ほどロボット技術の進展を分析したと言われましたが、今後どのように発展していくと考えていますか。

A. ロボットの発展はまた始まったばかりで、エコシステムがどう形成されていくのかは明確にはわかりません。こちらが知りたいくらいです。ただ言えるのは、これから偉大な進展があり、明るい未来があるということです。

Q. グーグルが数々のロボット会社を買収したことで、多くの才能が吸い上げられてしまい、経験を積んだロボット開発者がいなくなったという声もありますが、それについてはどう見ていますか。

A. 他社についてはコメントできません。

Q. サムスンもロボティクス・ラボを設立するとのことです。これからロボティクス・アクセラレーターは、開発者を競争して奪うようになるのでしょうか。

A. ベンチャーキャピタルも企業もこの分野に注目しています。しかし、いい製品を作る起業家はまだまだたくさんいて、人材の大きなプールがあると見ています。今後市場が拡大し、開発者の活動がどんどん活性化して欲しい。エコシステム形成のためには、他の会社が進出するのはいいことです。

Q. クアルコムのロボティクス・アクセラレーターは、具体的にはどんな場所になるのでしょうか。

A. まだ写真はお見せできませんが、場所はサンディエゴのクアルコム本社のキャンパス内となります。アクセラレーター施設は、総床面積7000平方フィート(約650平米)。内部にはラボ、回路ラボ、会議室があり、3Dプリンターや各種工具が揃っています。

Q. テックスターズ社との提携は、どんな理由で選ばれたのでしょうか。

A. スタートアップを育成するトラックレコードがある点です。また、テックスターズのメンターやスタートアップのネットワークとクアルコム技術との間にいい接点があると判断しました。

Q. 日本のスタートアップからの応募はありますか。

A. 関心があるようですが、誰とはコメントできません。応募は世界中から集まっています。

Q. アクセラレーターに受け入れられたスタートアップは、4ヶ月のプログラム終了後もサンディエゴに滞在することが期待されているのでしょうか。

サンディエゴ北部にあるクアルコム本社(赤印)。サンディエゴの南にメキシコとの国境がある(グーグル・マップより)

サンディエゴ北部にあるクアルコム本社(赤印)。サンディエゴの南にメキシコとの国境がある(グーグル・マップより)

A. それは必要条件ではありません。しかし、私自身も一度サンディエゴを訪れてそのまま居着いてしまったように、ここには予想外の発見があるでしょう。サンディエゴは、テクノロジー集積地として発展を遂げている。また、ロボット開発の点から見れば、メキシコのティワナに近いことは大きな利点です。設計、ハイテク・プロトタイピング、開発を至近距離で行うことができるわけですから。

Q. 中国の生産とティワナの生産体制との違いは何ですか。

A. 中国でもティワナも、技術的な進歩では共通しています。ただ、サンディエゴからメキシコ国境までは車でたった20分。ティワナはすぐそこですから、開発サイクルを加速化することが可能になります。中国の工場のように、5〜7日かけて税関を通過して、といった時間がかからない。もちろん、どこで製造するかはスタートアップの選択に任せます。

Q. クアルコム研究部門にはロボット・グループがありますが、同グループの研究とはどう関係しますか。

A. アクセラレーターとロボット・グループの研究は、別々のものです。

Q. ところで、クアルコム・ベンチャーズの中でもあなたがロボティクス・アクセラレーターの担当になられた理由は何でしょうか。

A. 私は、計算論的認知科学を専攻し、ニューロネットやAI、コンピュータ科学に関わってきました。クアルコムでも、スキルセットを構築してきました。ロボティクス・アクセラレーターについてはクアルコム側の現場リーダーであり、またクアルコム社とのリエゾンとなります。

Q. 5月に第1回のプログラムが始まり、その後4ヶ月ごとに新しいスタートアップを育成していくということですね。

A. その予定です。第1回の応募締め切りは3月8日。2〜10チームを選びます。プログラムは5月25日にスタートして、4ヶ月続きます。その4ヶ月間にテクノロジーとビジネスを研ぎすませ、プログラムが終了する9月半ばには、サンディエゴでデモ・デーを開催します。デモ・デーにはメンター、投資家、パートナー企業、クアルコムのネットワーク関係者らが参加。そこから投資資金を得て、もっと大きく羽ばたいていくというのがシナリオです。

 

タグ:

Comments are closed.


Copyright © robonews.net