「配送センターでは、60万人分の職が空いたままです」。フェッチ・ロボティクスCEOメロニー・ワイズ氏インタビュー<その1>
フェッチ・ロボティクス社は、さる6月にソフトバンクなどから2000万ドルのシリーズA投資を受けたことで、日本でもよく知られる存在になっていることだろう。
創業チームは元ウィロー・ガレージ社出身。同社のスピンアウトのアンバウンデッド・ロボティクス社を2013年に創業し、あっという間にUBR-1というロボットを開発して世間を驚かせた(ロボニュースのアンバウンデッド・ロボティクス社のインタビューはここに)。ところが、IPに関する問題で資金調達を行うことができなかったとして、2014年夏に泣く泣く閉鎖となった。
その後2014年秋に、同じチームが中心となってフェッチ・ロボティクス社を設立。またもやあっという間にロボットを発表したのが2015年4月末だ。しかも、ロボットはフェッチ(Fetch)とフライト(Freight)の2種類である。配送センターや倉庫でのピッキング作業をサポートするロボットとして位置づけられている。
ロボニュースは、5月初めにフェッチ・ロボティクス社を訪れ、CEOのメロニー・ワイズ氏を取材していた。またもや遅ればせながら、インタビュー記事をお送りする。尚、内容はインタビュー当時のもの。最近アップデートのコメントをひとことだけもらったので、それは最終回の<その3>でご紹介したい。
Q. フェッチ・ロボティクス社を創業したきっかけをどこかで読みましたが、けっこうおもしろいですね。
A. ロボット技術者の人材募集を見つけたのです。アンバウンデッド・ロボティクス社の閉鎖後、何もやることがなかったわれわれはテック-Rx(Tech-Rx)社のこの募集に応募しました。いいタイミングでした。そこでフェッチ・ロボティクス社が創設され、私がCEOになりました。
Q. アンバウンデッド・ロボティクス社のロボットUBR-1は、サービス・ロボットという広い位置づけでした。それに対して、今回は配送センターや倉庫と市場を定めています。その理由は何ですか。
A. 焦点を絞る必要があると考えたからです。非常に狭い分野での作業をうまくできるロボットにしようと思ったのです。半構造的環境がロボットが次に求められている領域であると言えますが、そこにはスーパーマーケット、倉庫、病院、ホテルなどいろいろな市場があります。そのそれぞれを検討しました。まず、病院は超えるべきバーが高すぎる。衛生上、安全上の規制がたくさんある上、エーソン社など、すでに10年以上前からロボットを開発してきた会社があります。高齢者介護施も、すでに大手が入っている上、どうロボットを使うべきか誰もわからない状態です。いずれも専門知識が必要で、スタートアップには難しい。
ロジスティクス市場では、ロボットが本当に求められている
Q. 引き算的に市場を絞り込んだということですね。
A. ホテルなどのホスピタリティー市場と、スーパーマーケットや配送センターなどのロジスティクス市場では、ロボットに求められる動作は似ています。ホテル用ロボットでは、マニピュレーターは不要ですが。しかし、ホテル市場では成長サイズに限りがあるのではないか。つまり、最初はおもしろがられても、その興奮が過ぎ去った後もまだ導入数が増えるのかどうかに疑問が残るのです。一方、ロジスティクス市場では、本当にロボットが必要とされているという実態があります。この業界では1年間の離職率が25%にも上り、60万人分の職が空いたままだとされます。自律的システムがここでは役に立つという見通しがありました。
Q. フェッチのようなモバイル・マニピュレーターは、ホットな分野ですよね。
A. ただ、実際に開発しているところはそうありません。ロボットの大手企業は大きなモバイル・マニピュレーターを考えているでしょう。もし小型のものを開発する会社があるとすればシリコンバレーですが、私が知るところではまだない。万が一、大企業が後から開発を始めたとしても、負けません。われわれはスタートアップで規模も小さいですが、迅速に動けますから。今回のロボットも7ヶ月で作りました。
Q. 先ほど、フライトが作業をしているところを見せてもらいましたが、フライトは実際のビジョンを元にした可動ロボットということですね。ピッキングをする作業員の後をついていく。
A. そうです。フライトはフェッチに次ぐソリューションという位置づけのロボットです。作業員の足を見て、いい距離を保ちながら後をついていくようにできています。障害物があれば、それを感知してよけます。最速では毎秒2メートルで移動できます。
Q. キヴァ・システムズ社のロボットなどのように、マーカーを認識して走行するしくみがありますが、これとは異なるわけですね。
A. そうです。われわれのロボットは実際の環境を認識します。マーカーを設置する方法ではインフラを作り替えるなど大きな設備投資が必要になります。その点、この方法ならコストが安くてすみます。中小規模から大規模の配送センターまで、市場の大部分はこちらの方法を望んでいます。ロボットには最初にマップを読み込ませ、そこにアノテーションを付けて、充電ステーションや行ってはならないところ、危険な階段などを書き込み、それを配送センターの管理システムと統合するのです。
商品の認識には、ライブ・データを利用
Q. タブレットやスマートフォンでのインターフェイスから操作ができるということですね。
A. インターフェイスには、「後を追う」「充電ステーションに行く」「止まる」などの選択がありますが、オーダーの商品がすべて入ったら自律的に倉庫から発送ステーションへ向かうこともできます。つまり、自律的動作とインタラクションによる操作を組み合わせることができるのです。
Q. インターフェイスでは複数のロボットの操作管理が可能ですね。何台までできますか。
A. 何100台にも拡張可能です。もちろん、隣の倉庫にいるロボットまで見る必要はないので、どのロボットの操作をするかも指定できます。
Q. アームのついたフェッチの方はピッキングができるということですが、どの程度の性能があるのでしょうか。
A. 目標は、人間と同じくらいの速さでピッキングができるようにすることですが、そこに到達するにはもう少し調整が必要です。デモでフェッチのピッキングを見せていないのも、そのためです。目標レベルに達したらお見せします。
Q. ピッキングする対象は、特定の場所の決まった商品ということになるのでしょうか。
A. フェッチは、対象の形がわかればグラスプ(把持)できるようにします。これはグラスプ・プランナーで最適化しています。しかも、データベースにある形状と照合するのではなく、リアルタイムのライブ・データを元に行います。その方がコンピューターのリソースを無駄に消費しません。
Q. 実際に対象の商品をその場で探すということですか。
A. マップのアノテーションがここで役に立ちます。フェッチの頭部にはセンサーが付いていて、見えるシーンをセグメント化し、それをつなぎ合わせて全体像を作ります。そのポイント・クラウド(三次元点群)のデータから、目的とする箇所を特定します。さらに、棚などのデータを取り除いた上で、そこにある対象物をセグメント化する。ですから、商品のID番号などに頼っているわけではないということです。商品はいつパッケージが変わってID番号が変更されるかもしれませんし、また外国の商品もあったりすると混乱します。
<その2>につづく。
*訂正: 当初の文中、ワイズ氏の発言の中で、グラスプの対象の認識を説明した箇所で、「その方がコンピューテーションにお金がかかりません」とありましたが、これは「コンピュータのリソースを無駄に消費しない」の意でした。本文は訂正済みです。
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