トヨタのAI・ロボット共同研究を率いるのは、元DARPAのギル・プラット氏

シリコンバレーでは、グーグル、フェイスブック、バイドゥーなどが次々とAI研究に力を入れていることが伝えられてきたが、ここへトヨタが加わった。しかも、AIだけでなくロボット研究もだ。そして、ロボット関係者にとってのビッグニュースは、これを率いるのがギル・プラット氏だということである。

プラット氏は、DARPA(国防高等研究計画局)のロボティクス・チャレンジ(DRC)のプログラム・マネージャーとして、DRC他さまざまなロボット関連プロジェクトを率いてきた人物。今年のDRC決勝戦が最後のチャレンジになると明らかにしていたが、その移籍先が何と、トヨタだったというわけだ。

今年6月DRC決勝戦授賞式のステージで。中央がギル・プラット氏

今年6月DRC決勝戦授賞式のステージで。中央がギル・プラット氏。右端はDARPA局長のアラティ・プラバカー氏。

『IEEEスペクトラム』によると、トヨタはスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)との共同研究所を設立し、今後5年間で5000万ドルをつぎ込む予定だ。さしあたりの目標は、自動車に搭載するAIと家庭用、特に高齢者を対象としたロボットの開発を加速化することである。ただし、自動車は完全な自律走行車ではなく、ドライバーをサポートして事故が起こらないようにする技術に重点が置かれる模様。これによって、高齢者も安心して車が運転できるようになるという。

トヨタとの共同研究を担うのは、MITではコンピュータ科学および人工知能ラボ(CSAIL)ダニエラ・ラス教授、スタンフォード大学では人工知能ラボ(SAIL)フェイフェイ・リ准教授だ。両ラボでは、自律走行車に的を絞った研究が行われ、それぞれが年間500万ドルの予算を持つ。

プラット氏は、「大学、およびDARPAで過去数10年間にわたって関わってきた技術を、最大のインパクトを持つ方法で応用できる機会。人間の生活を大きく向上できる」と語っている。同氏は、若い頃に友人たちの車をよく修理していたが、トヨタ製がもっとも耐久性が高く、トヨタ車の修理が好きだったとか。

自律走行車に対するトヨタのアプローチは、「事故を起こすことが不可能な」車で、ドライバーと車のコラボレーションによって完全な安全性が実現できるもの。グーグルのように車がすべてを行う完全自律走行車とは異なっている。すでにあるアンチロック・ブレーキ、ブラインドスポット警告、歩行者認識技術などを向上させると同時に、まだない機能も加えたいという。

MITのCSAILでは、渋滞、高速運転中、悪天候などの状況で次にどんな行動をとるべきかを決定するための予測モデルの開発を行うという。これによって、「自律走行車とロボティクス・モビリティーの技術をさらに進歩させる」とラス教授は説明している。

一方、スタンフォード大学のSAILは、画像認識、機械学習、深層学習、確率的推論、意思決定などの研究で知られる。リ教授はAIでホーリスティックなアプローチを行うためのにセンシング、認識、学習、コミュニケーション、動作を5本柱として捉えている。ことに、認識と学習に強く、多量のデータからパターンを見いだして、その意味を抽出する研究に特徴があるという。

また、トヨタはこれまでもロボット開発を行っており、自律走行車での研究がロボットにも応用されるだろう。同社ははっきりと構想は語っていないが、「人々の生活を向上させるロボット」が出てくる可能性もあると『IEEEスペクトラム』は見ている。トヨタは最近、「人を支援するロボット(Human Support Robot=HSR)」の以下のビデオをアップしている。

『IEEEスペクトラム』は、注意深い日本企業がこの発表をしたということは、かなりのコミットメントがあるという証拠だろうと推測している。ことにトヨタがコミットメントをするということは、ハイリスクだったプリウスの開発を成功させたように、需要と技術の実現性をよく読んでいるはずであるという。また、AIとロボットは、広くモビリティー一般に応用されるだろうとのことだ。

同誌は、この研究から生活を向上させるロボット、高齢者が尊厳と幸福感を持って生きるのをサポートするロボットが出てくることを期待している。また、一部企業のように大学の研究者を根こそぎ引き抜いて、研究所をもぬけの殻にしなかったことについても、トヨタを評価している。(注:配車サービスのウーバーが今春、カーネギーメロン大学との共同研究をスタートさせてすぐ、40人のロボット研究者を引き抜いて問題になった。)

 

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